コラム

自転車盗難と学生の頃の思い出

村上 大輔(統計基盤数理研究系)

今は大分改善したそうだが、私が学生だった当時、大学周辺では自転車の盗難が非常に多かった。在学中に3、4回は盗まれたと思う。特に驚いた事例でいうと「10分くらいだから大丈夫だろう」と早朝に鍵をかけずに置いておいた自転車が、戻ってみると跡形もなくなっていた。意味が分からずただただポカンとしてしまった記憶がある。高価な自転車が盗まれると余計に悲しいので、盗まれるたびに自転車屋に行って一番安い自転車を購入していたが、安いから盗んでも良いと考えるのか、鍵があまり頑丈でなかったためか、それもまた盗まれて、再び自転車屋に行ってさらに安い自転車を探すという悪循環に陥った。自転車屋にとっては景気のいい話かもしれないが、当時の私のような貧乏学生にとってはたまったものではない。大学はとても広く、休み時間のたびに数百メートルを移動しなくてはならなかったため、授業に出るにも自転車は必須であった。買い物に行くにも遊びに行くにも歩くには遠すぎるため、自転車盗難はまさに死活問題であった。

盗難が多いからか、自転車の登録番号確認を目的とした職務質問をやたらと受けた記憶がある。もっとも、これは私に限ったことで、ヨレヨレの服と自転車であちこち走り回っていたために怪しまれただけかもしれない。深夜や早朝にも職務質問は受けていたと思うが、その時間帯にも巡回を続けている方々には頭が下がる思いだった。

パトロールを行う以上、できるだけ効率良く巡回したいと考えるのは自然だろう。この点に関し、かつてパトロールのルーティングに関する共同研究に参加したことがある。この研究では、ブラジルのベロ・リゾンテ州のケーブル盗難を対象に、過去犯罪件数データから、ケーブル盗難が起こりやすい地区を予測して、その地区を重点的に巡回するようパトロールルートを最適化した(図1)。図2に示すように、ルート最適化を行った地域では、行っていない地域と比べてケーブル盗難が大幅に減少したことが、実証的に確認された。パトロールのルートを工夫するだけで窃盗が減るという結果に私は大変驚かされたし、かつての上述の自転車盗難の問題にも応用できる知見ではないかと思った。

自転車盗難には度々悩まされたが、大学生活そのものは楽しいもので、夜遅くまで宅飲みをしては、帰宅後にアパートの鍵をかけずに寝ることが日課になっていた。アパートの鍵をかけなかったのに深い理由はなかったが、ある日、下の階の住人のおじさんが突然部屋に入ってきて(部屋のチャイムが壊れていたと思われる)、ベランダで水道の元栓(?)をひねって帰っていったことがあり、その日の夜は鍵をかけたかもしれない。学生街のような特殊な環境にいると気が緩んでしまい、防犯意識が薄くなってしまうが、自分の身も自転車もきちんと守ることの大切さは忘れずにいたい。

図1:犯罪頻度の予測結果(メッシュ別)を元にパトロールルートを最適化。

図2:ルート最適化前後の犯罪件数(青:実施前、オレンジ:実施後)。パトロールを実施したTreatment areaでは、実施していないControl areaよりも大幅に犯罪件数が減少している。

出典:Kajita, M., Murakami, D., et al. (2024) Quantifying crime deterrence effect of patrol optimization through GPS data. SSRN 4745611.

ページトップへ